【BUBKA 9月号】話題の著者に直撃取材!! BOOK RETURN 第10回 水谷竹秀『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』
ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。
第10回は、日本からフィリピンへ生活拠点を移した老人たちを追った『脱出老人』の著者・水谷竹秀氏が登場。
なぜ定年退職者たちは日本を捨て、異国の地・フィリピンを目指すのか。開高健ノンフィクション賞受賞作家が浮き彫りにした“老後のリアル”を聞いた――。
フィリピン、そして山谷
――『脱出老人』ではさまざまな人物が登場します。人によっては、生活環境や背景が”重い”……読者の我々も体力を削られるような深い読書体験を味わえる一方で、著者である水谷さん自身、筆を進めていて気持ちが重くならないのか、とても気になってしまいました。
水谷 取材対象者によりますよね。例えば、第二章に登場する吉岡さんは、借金苦を理由に日本から逃亡し、フィリピンのスラムのような場所で暮らしている。経済的に困窮していることは間違いないのですが、非常にパワフルな方で、取材を重ねているとたくましさすら感じるほど。彼のような生き方を見ていると、変な話ですが「人生は何とかなる」とポジティブに受け取ってしまう瞬間もあるほど(笑)。反面、第六章に登場する介護疲れから日本を脱出したケースや、第七章のフィリピンで孤独死を迎えた女性のケースなどは、対岸の火事とは思えない。いつ自分が同じ立場になるか分かりません。重くなる以上に、自分自身、深く考えさせられる機会の方が多かったですね。
――現在、日本の老後には2000万円の貯蓄が必要であるということが話題になっていますが、本作を読むと、フィリピンを通じて日本の定年後の世界が見えてくることも印象的でした。
水谷 11年に発売された『日本を捨てた男たちフィリピンに生きる「困窮邦人」』では、日本で言うところのホームレスのような状況になった方々を取材しました。フィリピンの在留邦人の価値観を掘り下げていくと、「日本で迎える老後が不安」という大きな問題があることが分かりました。加えて、以前からさまざまな媒体で”セカンドライフを南の島で”といった趣旨の特集を目にすることが多かった。その中にはセブ島を始め、フィリピンも人気渡航先として含まれていた。しかし、長年フィリピンで暮らし、困窮する在留邦人の姿を目の当たりにしてきた僕からすると、フィリピンで”夢のセカンドライフ”という響きに違和感を持ちました。
――現実はそんなに甘くはないぞ、と。
水谷 そう。ところが、日本の老後に閉塞感を抱いている定年退職者は少なくない。書籍の冒頭でも触れていますが、定年後の海外移住を後押しするイベントは大盛況でした。『脱出老人』を書くにあたって、日本の老後の問題を取材することは避けては通れないだろうと。そして、実際に僕がフィリピンで目の当たりにした在留邦人たちのリアルを伝えなければ、”夢のセカンドライフ”を幻想視する人は後を絶たないと思ったんですよね。
――寂しさ、借金、介護、生活環境……さまざまな理由でフィリピンに渡った人たちがいる。たしかに、本作を読むと、夢のようなセカンドライフを過ごせている人はそれほど多くない現実が伝わってきます。裏を返せば、それだけフィリピンに淡い期待を抱いている人がいる。ということは、渡航先としてハードルが高くない?
水谷 高くはありません(笑)。
――インタビュ―の続きは絶賛発売中のBUBKA9月号にて!
みずたにたけひで
1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。ウェディング専門のカメラマンや新聞記者を経て、フィリピンを拠点にノンフィクションライターとして活動。2011年には『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞受賞。現在は、日本に活躍の場を移し、月刊誌や週刊誌などに寄稿する。著書に、『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)など。
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