【BUBKA 9月号】中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)愛と幻想の原辰徳 第9回「ついにここまで来たのか……」

元ファンからコラム日本一に輝いた最強野球ライター

中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る「2019年の若大将」

「仁志敏久ですかね」


 新橋でホルモンを食いながら、子どもの頃に好きだった選手を聞いたらこの連載の担当O編集マン(90年生まれ)はそう言った。正直、ビビる。松井秀喜や高橋由伸じゃないところが妙にリアルだなと思った。修学旅行の深夜、男同士の好きな女の子のカミングアウト合戦において、クラスで3番目あたりに可愛い子が妙にリアリティあったあの感じ(どの感じだよ)。おまえマジじゃんと。とどのつまり半端ないガチ感。なお95年巨人ドラフト1位の仁志は、その年限りで引退した原辰徳の”背番号8”を継承した男である。今季から栄光の8番は丸佳浩が背負っている。

 ちなみに当時の巨人選手は週刊誌で大人気だったが、『週刊ポスト』97年5月30日号掲載のゴジラ松井のコメントがとにかく凄い。試合前の練習中、いきなり番記者の股間をギュッとワシづかみにして、「いやァ~、調子いいから、下ネタ解禁!」と宣言するご機嫌な背番号55。

「チ○○に力が入って硬くなってると、腹にも力が入ってホームランが出るんです」「ボクはもちろん、今はタオルで打って鍛えてますから、ゼッコーチョー!」「AV? 筋トレ(自宅マンションには筋トレルームがある)の後に隣の部屋で見てますよ。どっちも鍛えなきゃね」

 もしかしたら、遅刻にAVと巨人軍は紳士たれを最も無視したのは国民栄誉賞男だったのかもしれない。通算100号ホームランのお祝いに繰り出したのは例によってノーパンしゃぶしゃぶの店。女の子の足もとからスカートの中を覗くため用のペンライトを2500円で売っていて、松井はそれを率先して買うと同行の記者らしき人に配ったという。さすが1億円プレーヤー…じゃなくてこの記事の写真キャプションが「さすがバットマン!」だ。念のため断っておくが、ゴジラ松井はまだ20代前半の若さである。現代なら完全アウトの凄まじい下ネタ連打。今、23歳の岡本和真が週刊誌で同じ発言をかましたら下手したら謹慎だろう。いやぁ時代が変われば、プロ野球も変わる。


 だって、「お前」がダメなんでしょ。中日応援歌で問題になった歌詞のお前問題も、原辰徳語録の「お前さん」ならクリアできる。あの頃の巨人でマスコミに揉まれまくった男を舐めてはいけない。令和でもギリギリのラインをついてくるタツノリ語録のセンス。そう言えば、敏腕営業マンに限ってセクハララインの境界線をうまくついてくる。洗体エステで熟練のマッサージ嬢が見せる「今日は仕事帰りネー? 最近アツいねー。で、お兄さんいつセックスしたの?」的なナチュラルなセクハラトークみたいなものだ。いやそういうことじゃなくてね。勝つときはたいていギリギリ。プルペンもギリギリ。上がっては下がり、また一気に急上昇。まさにタツノリとファンのジェットコースターロマンスペナント。とにかく前回の原稿締切から激動の1カ月だ。


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なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、初の娯楽小説『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)などが好評発売中!