【BUBKA5月号】なんてったってキヨハラ 第8回 「真夏の夜の夢」

 「オレは快楽主義者だけど、真の快楽を得るには才能もいるし疲れることなんだ」

 勘違いしないで欲しいが、これは俺が格安オンラインキャバクラで毎回吐く決め台詞ではなく、小説家・村上龍が1987年(昭和62年)の雑誌『現代』で残した言葉である。当時35歳、『69 sixtynine』『愛と幻想のファシズム』『すべての男は消耗品である。』と著書が立て続けにベストセラーになり、TBS系列のトーク番組『Ryu's Bar 気ままにいい夜』ではホスト役まで務めた時代を狩る男として人気絶頂だった。

 そんな〝未来を考えない狩猟民〞を自認する龍のように、球界のハンターこと清原和博は野球もギャルも好球必打。ニックネームは森監督がつけた〝殿〞。前年新人王の勢いそのままに首には18金のネックレス、時計は26万円のセイコー「ドルチェ」でブレスレットも好んだ。こだわりはサイフと住所録を入れるセカンドバッグでレノマとキャメルの両ブランドを愛用……なんて情報が『週刊明星』で定期的に報じられるほど19歳のキヨマーはナチュラルにアイドルだった。ヘッドホン・ステレオの中身は中森明菜や南野陽子という流行りを貪欲に追う狩猟民族・清原と、いつも英会話のカセットテープを聴いて目標に向けてコツコツと努力を重ねる農耕民族スタイルの桑田。PLの同級生が語る女性の好みは「清原は下ぶくれで、ポッチャリしたタイプ、ボインの方が好きやねん。桑田は落ち着いた感じのお姉さんタイプ、知性派が好みやねん」という愛と幻想のKKコンビ情報は置いといて、87年開幕時の主役はもちろん1年目にあらゆる新人記録を塗り替えた西武の背番号3の方だった。

 この春に発売されたおニャン子クラブのベスト・アルバム『家宝』は、レコードやカセットはなくCDのみでのリリースがニュースとなった時代の変わり目。『小学四年生』4月号には、特別読み切り長編まんが「めざせ!ホームラン王 清原和博」が掲載され、4月10日の開幕戦には当然のように「4番一塁」でスタメン出場を飾る。しかし、三冠王も期待された2年目のシーズンは、キャンプからオープン戦にかけて右足首ネンザに左手首の腱鞘炎と故障に悩まされ、開幕以降は各球団の徹底的な内角攻めに悪戦苦闘。デッドボールで怪我をしないよう、腹を突き出さず右足を引いて体をまわし背中でボールを受ける当たり方をコーチとマンツーマンで練習した。4月は2割台前半の低打率に4本塁打と絶不調だったが、それでも19歳の4番打者は決して逃げることなく毎試合打席に立ち続けた。それは横綱昇進後五場所目で早くも三度目の休場となった相撲界の新人類・双羽黒こと北尾光司とは対照的な姿である。なお北尾は、稽古場で若い衆をつかまえては「右を差せ! 右を差せといってるんだよ、コノヤロー!」などとすっかり親方気分で叫ぶばかりで、自身は膝の故障を抱え満足にシコさえ踏めなかったという。


――インタビューの続きは絶賛発売中のBUBKA5月号にて!


なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)、『令和の巨人軍』(新潮新書)などがある。