【BUBKA6月号】田崎健太インタビュー 「孤高の虎の真実と証言」

タイガーマスクと呼ばれた男を追い続け、その伝説を語り継いできたノンフィクション作家・田崎健太。著書『真説・佐山サトル』の単行本発売から2年半、その期間は多くの関係者の心を、足を動かした。そんな彼が、タイガーマスク40周年イヤーとなる今年、『真説・佐山サトル』の文庫化を機に再び筆を取った。

写真提供=平工幸雄


父と息子

――『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』が、初代タイガーマスクデビュー40周年に合わせて文庫化されますけど、単行本として出てから2年くらいですか?

田崎 2年半ですね。本当は去年の6月くらいに文庫化しようという話があったんですけど、追加取材をするのに佐山さんの体調があまり良くなかったこともあって。「だったら落ち着いてから40周年に合わせてやりましょう」ということになったんです。

――でも、2年半前に『真説・佐山サトル』が書籍として出てから、佐山さん界隈は、いろんなことが一気に動き出しましたよね。まず、息子である佐山聖斗さんが、あの本によって初めて表に出るようになって。修斗と佐山さんの関係も一気に雪解けに向かっていったという。

田崎 だからノンフィクションは、そういうところありますよね。佐山さん自身、家族には照れもあって話してないことがあったけど、それを僕が聞いて本に書くことで、奥さんや聖斗くんが初めて知ることがあったり。お父さんが何を考えていたかを知ることで、聖斗くんの考えも変わっていくという。

――この本が出たあと、格闘技を始めるわけですもんね。だから、今回の文庫化は「その後の『真説・佐山サトル』」が加わったことで、完全版になったのかなと感じました。

田崎 そうなんですよ。単行本を書いていた時は、なかなか結論が見えなくて。佐山さん自身も掣圏道から須麻比(古武道)をやったり、「自分が何をすべきなのか」っていうのを悩んでいた時期でもあったと思うんです。佐山さんはいろんなことを思いつくんですけど、「天才」と呼ばれる人に共通していることと言えば、ひらめきはすごいんだけど、それをどう現実に実行して継続していくことはなかなか難しい。

――無から有を生む発明はするけれども、それをビジネスにして、続けていったりするのは得意じゃないんですよね。

田崎 だから正直、僕も『真説・佐山サトル』の単行本の終わり方に満足していなかった。なぜかと言うと、佐山さん自身が「佐山サトルとは何か?」が、まだ定義できてなかったと思うんですよ。自分が何をしなきゃいけないのかっていうことが、あの単行本の時点では、まだきっちりと定まっていなかった。ただ、僕のインタビューで昔から順に追っていったことで、佐山さんがいろいろ思い出してきたことはたしかなんです。

――自分の歩みがクリアになっていったというか。

田崎 クリアになったのもそうだし、結局、それまで修斗というものを、あの人の心の中で押し隠して、見ないようにしていたと思うんですよ。

――タイガーマスクとしてのスターの座を捨ててまで創設した修斗を事実上追放されてから、修斗について語ることはほどんどありませんでしたもんね。

田崎 そこに本人が僕の取材を通してちゃんと向き合ったことで、周囲も含めていろんなことが動き出していったという面もあったかもしれません。だから単行本の時点では、『真説・佐山サトル』のエピソード1とまでは言わないですけど、まだ未完成でした。ここから佐山さんの物語が大きく動いていくかもしれないという予感はありましたけど、僕は感じてましたから。ただ、ここまで急速に進むとは思ってませんでしたね。息子の聖斗くんがお父さんの佐山さんを引き継ぐようなかたちで格闘技を始めて、佐山さんもまた家族のところに戻って生活するってなると、ようやく一つの完成の形になったのかなと。もちろん、まだこれから聖斗くんの人生、佐山さんの人生は続くから、最終的には完成はありえないんですけど、『真説・佐山サトル』というノンフィクション作品は、今回の文庫化でひとまず完成したのではないかと思います。


――インタビューの続きは絶賛発売中のBUBKA6月号にて!


たざき・けんた
1968年生まれ、京都市出身。ノンフィクション作家。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。以降はノンフィクション作家として独立。著書に『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『真説・長州力 1951-2018』(集英社)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社) などがある。『真説・佐山サトル』の文庫版が現在発売中。