【BUBKA 3月号】中溝康隆(プロ野球死亡遊戯) 愛と幻想の原辰徳 第3回「時代に逆行する壊し屋」

元ファンからコラム日本一に輝いた最強野球ライター

中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る「2019年の若大将」

稀勢の里の向こう側にタツノリがいた。

 ってなんでやねん……。この原稿を書くために大量の新聞記事を集めたファイルを整理して、ちょっと休憩しようとテレビの大相撲中継をつけたら、思いっきり国技館の超前列に原辰徳が映り込んでいたのである。半端ない顔面力で目立ちまくり、全然土俵の取り組みに集中できねぇ。なぜそこに? 日本相撲協会の公式アカウントから、すかさず八角理事長とのツーショットが拡散されちゃうフットワークの軽さ。まったく油断も隙もありゃしない。2019年も隙あらばタツノリだ。正月からスポーツ新聞各紙では雨の日も雪の日も、由伸さんなら死んでもやらなそうなポーズを決めちゃうタツノリぶっこみ。開幕前から、ハラ一杯。なんてどうしようもないギャグをかましたくなるほど、ストーブリーグの主役はこの男だった。

 元メジャーリーガー岩隈久志の入団会見では気さくに「クマさん」と呼び、スポーツ報知の柔道日本代表監督・井上康生氏との対談では「全てのものを味方にするという考え方は必要」なんてやたらとスケールのデカい秘策をレクチャー。WBCでは「イチローを始め、みんなに言ったのはね、『このグラウンドも応援してくれてるぜ、まずグラウンドに挨拶して、土でもつけて、よろしくお願いしますってやろうぜ』と。そしたらグラウンドも空気も味方になるから」って、もしウチの社長がオフィスで「よし机と椅子に挨拶しようぜ」とか言い出したらやべーよなと心配したくなるぶっ飛んだ理論を語ってみせた。怒濤の勢いで新戦力を獲って獲って獲りまくったと思ったら、今度は出して出して出しまくる。いや下ネタじゃなくてね。巨人ファン、いや野球ファンを一瞬たりとも休ませない壊し屋タツノリ。破壊と再生を通り越して、派手にぶっ壊しすぎちゃって、生え抜き功労者の内海哲也や長野久義がFAの人的補償で移籍する異常事態だ。年末に内海が西武へ、年明けに長野が広島へ。二人とも他球団のドラフト指名を拒否してまで、死にたいくらいに憧れた巨人にこだわった選手たちにもかかわらず、28名のプロテクトから漏れ、30代中盤であっさり放出。俺なら家のトイレでひとり泣く。確かに優勝から遠ざかるぬるま湯のチームをぶっ壊したいんだろう。けど、さすがにこのやり方はあんまりじゃねえかと物議を醸す中、ジャイアンツ球場の新人合同自主トレを視察した原監督は満面の笑みを浮かべ、こんなブラックジョークをかましたという。「ハツラツとしてたね。若アユだ。若鯉と言うわけにはいかないだろ?」


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なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)が好評発売中!