【BUBKA10月号】コラム日本一の最強野球ライター 中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る 愛と幻想の原辰徳 第十回「金色に光るテレホンカード」

元ファンからコラム日本一に輝いた最強野球ライター

中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る「2019年の若大将」

 あの洗体エステ代で何が買えたのか?

 

 いきなり村上龍風に始まってるが、男は人生における飲み代や風俗代を冷静に計算したら負けだと思う。みんな昼飯の牛丼50円割引券とかささやかに利用してるのに、飲んだあと衝動的に2万円の洗体に行っちゃうあの感じ。で、帰り道に思うわけだ。全然パネル写真と別人だったじゃねえか!……じゃなくて俺はいったいナニをやってるのだろうと。


 野球グッズもこの感覚に近い。7月30日の広島戦で監督通算1000勝を達成した原辰徳は「朝になれば今日どう勝つか、夜になれば明日どう勝つかその積み重ねでこの数字にきたと思います。現在も今日は終わった、明日どう勝とうかとそのことしかないですね」と試合後のお立ち台に呼ばれて語り、「私自身も選手たちに負けないよう、足を引っ張らないよう頑張っていきたいと思います。ファンのみなさまよろしくお願いします!」なんつって東京ドームの大観衆に向けて絶叫。もちろん記念のブリザードフラワーパネルを手を滑らせ危うくポロリするお約束のサービスカットも忘れず、笑いと拍手と大タツノリコールに包まれ、ハイッ優勝決定! みたいな雰囲気になり、俺も反射的に公式通販ページで1000勝記念アンダーアーマーTシャツ5400円、記念トートバッグ1800円、記念ゴールドラメアクリルキーホルダー1000円とタツノリグッズを1万円近く買いまくり、キンキンに冷えたレッドブルを一気飲みしてひとり祝杯をあげた。ここであんたそのダサいトートバッグをどこで使うんだなんて突っ込みは野暮だろう。アイドルもプロ野球も、買うという行為自体が応援に繋がることもある。

 それにしても、現役時代はONと比較され勝負弱い4番とボロクソに叩かれ、28歳のオフに行われた結婚式ではスピーチに立った当時のボス王さんから「巨人軍の4番はやはり原なのだとファンから言われるように!」と檄を飛ばされ、ミスターには「優勝しないのは原が悪い、新郎が悪い、こういう我々OBにとりましてありがたくない話が無造作に出てくる。これは新郎、充分反省もしているところだと思います」とか喝を入れられる始末。結婚式で上司から叱られるってムチャクチャだ。そんな頼りなかった人の良さそうな兄ちゃんがオヤジになり、監督1000勝でONから賛辞を送られる様子は30年越しのタツノリ大河ドラマを見てるようだった。この大団円のメモリアルゲーム後、チームは6連敗で2位に猛追されるオチもついたけど……。


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なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、初の娯楽小説『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)などが好評発売中!