【BUBKA 11月号】解約するのはまだ早い!『全裸監督』新規に捧げる もっとおもしろいNETFLIXの世界 by宇野維正

日本中で話題となった『全裸監督』。この作品のためにNETFLIXに入会したという声も少なくはない。

それと同時に「次はなにを観れば……」と、目の前に広がる膨大なコンテンツに呆然としてしまうという声も耳にする。

そんな新規ユーザーのために、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏に、寝不足&中毒必須のいま観るべきNetflixオリジナル作品を紹介してもらった。

壁を壊した『全裸監督』

 今年、日本で大きな話題となったNetflixオリジナルシリーズといえば、『全裸監督』。この作品はすごく優れているところと、残念なところがハッキリしてました。まず優れていたのは脚本ですね。ドラッグカルテルを描いたNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』の脚本家からレクチャーを受けて、チーム制で脚本を作っていった。映画もドラマもそうですけど、これまで日本はチーム制で脚本を作るシステムがほとんどなかったんですよ。実はそれってドラマの完成度に直結する部分で、今のアメリカなんてドラマはもちろんですけど、映画も脚本のクレジットが1人しかいないなんてアーロン・ソーキンみたいな天才脚本家か、極端に作家性の強い監督の作品ぐらいです。通常のエンターテインメント作品では、複数の脚本家がそれぞれの強みを活かして、ディスカッションした上で作っていく。あと、単純に1人の脚本家が書ける量は限られているので、今の映画やテレビシリーズのスピード感についていくには、どんな優れた作り手もチーム制に頼るしかないんですね。それをシステムとして『全裸監督』で導入できたことはすごく大きいし、結果、ちゃんと功を奏している。

 もう1つ『全裸監督』で感心したのは、役者の集まり方ですね。最近、日本のテレビや映画を観ていてよく思うのは、メインの4人までは割と名前の知れた役者なんですけど、5番手あたりから「この人は誰だろう?」と知名度がガクンと落ちるわけですよ。単純に製作費が少なくなってるからなんですけどね。もちろん、その抜擢された作品で無名の役者がブレイクしたとすればいい話ですよ。でも、そんな美談はどこにでも転がっているものではない。『全裸監督』は「こんな小さな役でも、こんなに有名な役者さんが演じているの!?」と驚かされます。それが出来る大きな理由は、お金の問題もあると思うんですけど、それだけじゃなくてNetflixのオリジナルドラマに出演するというのが、大手事務所主導でキャスティングから決まっていく民放のドラマや国内メジャーの映画に出ることに比べて、役者にとってやり甲斐を感じるものだからでしょう。黒木香のお母さん役を務めた小雪さんなんて、出番もかなり少ないし、視聴者にあまり好感度をもたれるようなキャラクターではないじゃないですか。でも、アダルトビデオという題材からくる男優陣のホモソーシャル的な盛り上がりだけじゃなくて、小雪さんのような女優さんを含めて、その企画に可能性を感じて集まっているという。なので"脚本"と”役者”の2つに関しては、明確に日本のこれまでの映像作品の壁を壊したという意味で、すごく意義のある作品じゃないですかね。ただ、演出に関して言えば「頑張ってるな」というだけ。本当にダメだったのはCGです。もう話にならない。それはお金じゃなくて経験とセンスの問題で、雪のシーンや飛行機の飛んでいるシーンなんてギャグでしかないですよ。あと、音楽の使い方に関しても、作り手の狙いや意図はわかるんですけど、ヒネった部分が完全に空振りしてますね。製作費がふんだんにあって曲の権利とか取りやすいはずなのに、もったいない。80年代の日本を描くんだったら変にヒネらずに、当時の歌謡曲をどんどん使っていったらもっと話題になったはずです。海外の作品のように、選曲の専門家を入れるのが当たり前になってほしいですね。声をかけてもらえれば、いつでも自分がやりますよ(笑)。なので、課題もたくさんありますが、それがハッキリ見えるということは、今後は乗り越えられるかもしれないということ。そういう意味では、シーズン2にも期待が出来るし、応援したいですね。


――インタビュ―の続きは絶賛発売中のBUBKA11月号にて!


うの・これまさ
1970年生まれ、映画・音楽ジャーナリスト。『ロッキング・オン・ジャパン』『CUT』等の編集部を経て、現在は映画サイト「リアルサウンド映画部」で主筆を務める。著書に『1998年の宇多田ヒカル』『くるりのこと』(ともに新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)『日本代表と Mr.Children』(ソル・メディア)など。