【BUBKA 12月号】コラム日本一の最強野球ライター 中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る 愛と幻想の原辰徳 第12回 「平成巨人から令和ジャイアンツへ」

元ファンからコラム日本一に輝いた最強野球ライター

中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)が書き綴る「2019年の若大将」

俺は東京ドーム2階席でひとり勃起していた。

 

 令和イチ最低な書き出しだが、巨人5年ぶりのリーグVで東京ドーム開催となったCSファイナル第1戦。普段の阪神戦は三塁側は虎党が多いが、この日ばかりは左翼席の一部を除いて巨人ファンで埋め尽くされていた。全面オレンジ色に染まる圧倒的ホーム感。各優勝グッズは異常なスピードで売切れが続出している。それだけみんな優勝に、強い巨人に飢えていたのだ。1回裏、3番丸佳浩、4番岡本和真の2者連続アーチにドーム全体が揺れる。球場観戦に慣れているはずの俺も珍しく興奮状態で、気が付いたらチンチンがビンビンだった。そして、前のめりで股間を隠しつつ、コーラを飲みながらこの激動の数週間を振り返ったんだ。


「あれ? チャリンコがない……」

 巨人が2位DeNAとゲーム差3で迎えた天王山を今季最多タイの5本塁打で完勝。優勝マジック2とした寸止めの9月20日夜、横浜スタジアムから電車に揺られ最寄り駅についたら、停めていたはずの自転車が消えていた。もし撤去なら張り紙くらいあるよな……。そう言えば、V特需の原稿ラッシュでヘロヘロすぎてちゃんと鍵をかけていたのかも曖昧だ。10数年前にドンキにて9900円で買ったボロボロのチャリ。防犯登録番号もほとんど黒ずんで見えなくなってた気がする。けど、不思議と怒りはなかった。変な言い方だけど、チャリが盗まれて安心した。だって、原巨人の優勝が決定的な今、これで人生の幸不幸がイーブンになった気がしたのだ。いいことばかりじゃ気持ち悪いってさ。

 もちろん翌21日も目の前で胴上げを見るためにハマスタへ向かった。V決定の球場全体の雰囲気を感じたくて珍しく取材パスを申請済みだ。巨人先発はなんとプロ初登板のドラフト6位ルーキー戸郷翔征。出た、タツノリお得意のお前さん人生を変えてこい起用。今季支配下68人中60人を1軍で使った全員野球の大トリを飾るにふさわしい抜擢に応え、150キロの直球を連発する19歳は選ばれし者の恍惚と不安でキラキラしていた。試合は9回2死走者なしから小林誠司のライト前タイムリーで2対2の同点に追いつき、延長10回表に育成選手上がりの増田大輝がセンター前にしぶとく抜ける殊勲打を放ち勝ち越し。


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なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、初の娯楽小説『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)などが好評発売中!